Home人生の指南役 指導医の役割 ―研修医の教育を通して―『すべての可能性を排除しない』

【すべての可能性を排除しない】

どういう意味かわかるかい?

「いえ、ちょっと・・・」
外来で患者さんが胃が痛いと言って受診したとしよう。
鑑別疾患を考える。言ってごらん。
「胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、逆流性食道炎、胆嚢炎、総胆管結石、急性膵炎、膵癌、腎結石、腸閉塞、急性虫垂炎の初期像、心筋梗塞の下壁梗塞、あとは・・・。」
もういいよ。すでに10個は挙がっている。淀みなく挙げられたな!ずいぶん成長したじゃないか!
では、患者さんの病気はその中に必ず入っているか?
「え?いえまだ診てないので・・・」
Virtualでいいのさ。だってもともと鑑別診断を列挙してもらっているのは、10個挙げてもらうのが目的ではないでしょ?確実に病気を診断するために挙げたものの中に病気を囲い込むための論理的方法論なのだから。逆にもしかして、その中に「正しい病気が入っていなかったら?」って考えてごらん?怖いことでしょ?
「はい怖いです」
まったくお門違いの診断をして、違う治療をしてしまうわけだから。それを巷では誤診て言うんだけど、知っているよね。だから、その考えをいつもこころの隅に用意しておくことが大切なのさ。
「はあ。なんか難しそうですね」
でも具体的に考えれば難しくない。めったに遭遇しないめずらしい疾患、でも絶対に見逃してはいけない重篤な疾患の鑑別疾患を考えてみよう。
例えば、Crohn病の方の腸管穿孔、心房細動を基礎疾患に持っている方のSMA血栓症、便秘や麻痺性腸閉塞のS状結腸軸捻転、若い女性の子宮外妊娠。いずれもめったに診る疾患ではない。でも、気付きさえすれば診断は難しくないけど、絶対にみあやまってはいけない。まあ医者を永くやっていると、何年かに一度遭遇することがあるんだ。でも、こういう症例は忘れた頃にやってくるものなのさ。
これらの疾患は君が先に挙げてくれた通常の鑑別疾患の中には入っていないよね。当然最初の鑑別疾患としては普通に考える疾患ではないのは僕らも同じさ。
でも、「この患者さん変だな」って思った時には、僕らのこころの隅に用意してあるこれら病態は必ず鑑別診断の上位に挙がってくる。
人間はどうしても安易な方にはしるくせがある。めったに遭遇しない疾患は、確率的にも「たぶん違うだろう」と、こころにある種の期待と規制がはたらく。それではいけないんだ。
もしもこの疾患が?まさかあの疾患が?ということを常に想定の範囲内で検討できることが大切なのさ。
鑑別疾患を100個あげることが必要なのではない。
でも10個挙げればおしまい・・・でもない。11位以下を考慮しなければいけない症例が少なからずいるということを忘るるべからず!
災害は忘れたころにやってくる。
災害は頻度は少ないからしょっちゅうではないのさ。でもこころの準備と非常時の携帯備品などの準備は怠るべきではないよね。
Murphyの法則じゃあないけれど、難しい症例は気の緩みがあるときをねらってやってくるものなのさ。
「すべての可能性を排除しない」
考えうる最大の網をかけてもその網にかからない、かかりにくい難しい疾患があるのだということを肝に銘じておいてね!

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