X年の胃がんの死亡率はY。Z年の胃がんの罹患率はW。
どうして死亡率と罹患率で、速報値が同じ年の統計がないかわかるかい?
「え、そうなんですか?」
死亡率は実数の実績。死亡診断書を統計したもの。
でも、罹患率は推計値なんだ。
考えてごらん。
その年一年間に癌に罹患した方の実数を把握することはものすごく大変なことなのだ。
今日診察した胃がんの患者さんだけど、電子カルテ上で癌登録したでしょ。だから、これは当院の成績として来年以降の実数登録に加えられる。でも、登録してなければ、我々が胃がんの患者さんを診察した事実はあっても、日本の統計の中に組み込まれることはない。うちの病院は癌拠点病院だから、このような統計を提出することが義務付けられているけれど、すべての病院が情報提供しているわけではない。だから、ある程度の癌の患者さんの診療データを集めて、癌登録として情報分析する。それを「日本全体で考えると」という推計値を算出するのが、罹患率なんだ。
だから、極端なことを言うと死亡数から死亡率は昨年の数値が出せるけど、罹患率は集計や計算に時間がかかるので、公表は遅れるわけさ。
最近はその数値もがんセンターで集約して、できるだけ正確な数値を出そうとしているんだけどね。
だから、自分で診察するのはわずか一人のデータかもしれないけど、癌登録しなくちゃいけないんだ。一人一人のデータの積み重ねが、何年か後の罹患率に反映されてゆくってわけさ。
自分の仕事が日本の医療のためになるって考えてごらん。
わくわくするだろう?