研修医募集専用ページ

CPAって聞いたことある？

「はい」
Full spellで言ってごらん。
「・・・arrest」
Cardio Pulmonary Arrest:心肺停止だよね。
「はい」
じゃあDOAは？
「Death・・・」
Dead on Arrival：到着時死亡状態だよね。
覚えておいてね。君が何年か経ったときに研修医に聞かれて教えられなかったら恥だよ。
経験はあるかい？
「いえまだ、当直でも経験ないです」
何年か前に福島市で研究会があって、参加してきたんだけど、新幹線のプラットホームで待っていたら、そばでドサッて音がして、急に「おかあさん！」って声が聞こえてさ、振り向いたら中年の女性が倒れていて、息子さんなんだろうね体を揺すっている。
君ならどうする？
「僕はなにもできないですよ」
見ているだけ？
僕は大学のときこのような患者さんがいたら、必ず手を貸すようにって教わったよ。
それを言ったのは生化学の教授だったけどね。なんで基礎の先生が臨床のことを言うんだろうって不思議に思ったけどね。
列車がホームに入ってきたのでどうしようか一瞬悩んだけど、すぐにかけつけたよ。
CPAだった。doll eye、brain damageかなって思ったけど、まずは蘇生。指でAir wayを確保し、窒息でないことを確かめた。当時はAEDがまだなかった。さすがにmouth to mouthはできないので、息子さんに要領を教えて、僕は心臓マッサージ。5:1で続けた。野次馬に救急車の依頼をしたら、10分ぐらいで救急隊が来てくれた。そのときには少し自発呼吸が出だしていた。
僕が医師であること、倒れてすぐに蘇生を開始して、brain damageの可能性があることを告げたけど、彼らは上の空。不整脈かな？なんて相談しながら、「後はこちらで」なんて言って礼のひとつもいわずに行っちゃった。
別に礼を言ってほしかったわけではないけど、案外、病院の外では僕らは無力なんだなって思った。医師の証明書もないし、特別なことができるわけでもない。彼らにしてみればただの通りすがりにしか見えなかったのかもしれない。
僕は次の新幹線の最終便でなんとか帰宅することができたけど。なんとなく気がかりで、ちょっと釈然としないところもあった。
次の日、搬送するといっていた病院に電話をして、患者さんの容態を確認してみた。個人情報なので、電話での応対はしてもらえないかとは思ったけど。自分が医師であり、蘇生に直接関り、素手でair wayの確保をしたこともあり、せめて感染症の確認だけでもさせてほしいと依頼した。
昨日担当した看護婦さんが、僕の身元確認をした上で、患者さんが搬送中に再度心肺停止に陥り、蘇生しながら搬送され、脳幹出血で亡くなられたことを伺った。感染症はなかった。
初期治療で救命できる患者もいるけど、damageが強ければ、助けられないこともあるんだよね。合掌。